スマートフォンのダウンロード速度はキャリアの競争の主戦場となってきました。数字で示すことができて分かりやすく、他社との差も強調できる数少ない指標として、今でも携帯電話売り場には「速度No.1」といったポップが大きく掲示されています。
しかし計測方法や場所、時間などを恣意的に選択することで、自社に有利な結果を出すことが容易な指標でもあります。大手通信キャリアが調査費用を実質的に負担して、自社に有利な速度調査を実施していた実態もあります。iPhoneの販売競争でも速度広告の分かりにくさが問題にもなりました。
そうした状況を改善するため、総務省は今年末頃をめどに速度計測方法、広告への記載方法を統一します。詳細は「総務省が実効速度の計測手法に指針」「総務省:ガイドライン(案) PDF」に譲るとして、この変更で消費者は何に気をつければいいのでしょうか。
まず一つ目に注意すべき点は「県庁所在地、政令指定都市、東京特別区」でのみ調査されるということです。地方都市や郡部を生活圏とする人の参考にはなりにくい数字になります。また人口傾斜で調査地点が選定されることから、政令指定都市でも山間地域などのデータは数字に反映されにくくなります。
そして計測には「屋外で静止して計測」という条件が付いています。そのため統一基準での計測結果は通勤電車で、新幹線で、通学のバスで快適に利用できるか否かの参考にはなりません。屋内である自宅やオフィスビル、大規模商業施設、地下街などで問題なく使えるかの参考にもなりにくくなります。
また「計測地点は通信キャリアが申請した段階で総務省がランダムに決定」するため、調査によって計測場所が異なります。そのため時系列で数字の変化を見たり、キャリア同士で通信速度を比べたりという使い方は厳密にはできません。
そして運用面の問題として、「計測地点が決まってから2カ月以内の測定」「計測地点は50m四方で指定」となっているため、キャリア側が「対策」することが不可能ではありません。2カ月の間に計測地点をピンポイントで電波改善したり、50m四方内で電波状況のいい場所を選んで計測したり、数字を飾ることも不可能ではありません。
そうしたことを念頭に新指針で行われる速度計測を見る必要はあると思います。ただ今までに比べてはるかに透明性は増していることは事実です。なお現在の指針は(案)の段階であり、パブリックコメントなどの意見を反映して微調整されることもあります。